不育症・習慣流産のみなさんへ
原因不明習慣流産―胎児染色体異常流産
薬剤投与の必要性はなく、過去の流産が2回なら80%、3回70%、4回60%、5回50%が次の妊娠で出産できます。
妊娠の15%に流産が起こり、流産の50-80%に胎児の染色体異常がみられます。女性の加齢によって頻度は上昇します。夫婦の染色体が正常で胎児に数的異常が起こることは“偶然”とみなされ、長い間“胎児染色体異常による反復流産”は認知されていませんでした。1996年にCoulum先生らが、散発流産も反復流産も胎児染色体異常の頻度は同等であるという報告をしました。私たちは反復流産患者の1309妊娠について調べ、偶発的な散発流産の患者さんと比較して反復流産では有意に染色体正常の頻度が高く、既往流産回数が増えるに従って出産成功率は減少し、胎児染色体異常率も減少することを明らかにしました(図26、文献34)。しかし、既往流産回数2-4回では染色体異常流産は50%以上存在しました。この研究では夫婦染色体均衡型転座の人も含めていたため、10回以上でも不均衡転座に由来した染色体異常が存在しましたが、それらを除くとすべて正常でした。
反復流産においても胎児染色体異常は重要な原因のひとつであることがわかりました。胎児染色体異常がみられたときの次回妊娠の成功率は胎児染色体正常であった時よりも有意に高率でした(62%vs38%、オッズ比2.6)。つまり、胎児染色体数的異常というのは次回出産の予知因子でもあるわけです。
胎児(胎芽) 染色体核型 |
散発流産 n=114 |
反復流産 n=234 |
---|---|---|
正常 | 23.7% | 48.7% |
異常 | 72.3% | 51.3% |
Trisomy | 72.3% | 52.5% |
Double Trisomy | 0% | 5.8% |
Monosomy | 5.7% | 4.2% |
Triploidy | 16.1% | 15.0% |
Others | 5.7% | 22.5% |
胎児染色体 | 次回生産率 |
---|---|
正常 (n=71) | 38.0% |
異常 (n=60) | 61.7% (OR 2.6) |
既往流産回数増加につれて成功率は減少し、
胎児染色体異常も減少する
流産は女性の加齢によって増加します。その原因は、主に減数分裂における卵母細胞の染色体分配エラーが女性の加齢とともに増加するためです。染色体G分染法による胎児染色体異常は70%ですが、新技術であるマイクロアレイCGH法を用いた研究によれば、流産の80%に染色体微細欠失を含む胎児染色体異数性がみられたということです。
胎児染色体異常をn回繰り返している確率は(0.8)nと推定できます。つまり、平均3回流産歴をもつ習慣流産集団の約51%は胎児染色体異常を3回とも起こしていたと考えられます。さらに片親性ダイソミー、メチル化異常といったエピゲノム異常も流産に関与していることが報告され、習慣流産には胎児先天異常によるものが私たちの想像よりもはるかに多く起こっています。
胎児染色体検査を実施している482組の患者さんの異常の割合を調べてみると胎児染色体異常流産は41%に存在しました(図4-B、文献6)。
原因不明の患者さんは薬剤投与の必要性はなく、一定の確率で成功できます。2回流産なら80%、3回70%、4回60%、5回50%の方が次の妊娠で出産できます(図27、文献35)。前述のとおり、胎児染色体異常が確認された人は予後がいいと考えられます。
age | 既往流産回数 | |||
---|---|---|---|---|
2 | 3 | 4 | 5 | |
20 | 92 | 90 | 88 | 85 |
25 | 89 | 86 | 82 | 79 |
30 | 84 | 80 | 76 | 71 |
35 | 77 | 73 | 68 | 62 |
40 | 69 | 64 | 58 | 52 |
45 | 60 | 54 | 48 | 42 |