教授あいさつ
名古屋市立大学産科婦人科のホームページを閲覧いただきましてありがとうございます。教授の杉浦真弓です。
本学には不育症・習慣流産研究の伝統があり、私も1990年からこの研究に携わりました。最初の研究は、抗リン脂質抗体が流死産を起こす機序に関する凝固学的基礎研究でした。抗リン脂質抗体は生体内の細胞膜などに存在するリン脂質に対する自己抗体であり、不育症の主な原因の一つです。以来、私は、"数年後の患者さんの役に立つ臨床研究"を心掛けてきました。本学の研究成果は欧州生殖医学会不育症ガイドライン2017に13篇が引用されました。また、2021年には、国際的に活躍する不育症研究者とともにTHE LANCET series “Miscarriage matters: the epidemiological, physical, psychological and economic burden of early pregnancy loss”を執筆し、世界中の患者さんに貢献できました。不育症の標準的医療については「不育症・習慣流産のみなさんへ」ホームページに公開していますのでぜひご覧ください。2018年には日本不育症学会を設立しました。2020年11月には日本不育症学会認定医制度を開始しました。全国で標準的な不育症診療が受けられることを目指しています。
妊娠の15%が自然流産に終わります。また不妊症も15%の頻度です。つまり、4人にひとりが妊娠につまずいて悩んでいます。日本では"母性神話"といって、女性は子供を生んで一人前であるといった考えが強く、不妊・不育に悩んでいる人が大きな声で悲しみを表現できません。不妊症の10-25%、不育症の8.6-33%の方が抑うつで悩んでいることがわかっています。特に、不育症は妊娠経験者の5%と高頻度ですが、社会から認知されていません。日本では、結婚して子供を持つという伝統的価値観が変化し、出産数は減少の一途をたどっています。それぞれの選択は尊重されることが大切ですが、子どもを持ちたい人が子供に恵まれないのはつらい経験です。女性の加齢とともに妊娠が困難になるという知識も不足しています。女性には、哺乳類の一種として妊娠適齢期があります。いくつになっても妊娠可能と誤解して、貴重な時間を失ってしまっている女性は少なくありません。わが国の女性たちは良く働き、よく遊んで40歳を迎えます。40歳になると妊娠しにくくなりますよ、と誰も教えてくれません。子供を持ちたいという、ささやかな希望につまずくことがないように、ライフワークである習慣流産の研究と共に生殖教育も継続しています。学校の教科書に不妊症、不育症、流産について記載されることを要望しています。
本学産科婦人科の特色は、それぞれが自由に自身の目標を追及していることです。不育症・習慣流産の研究、着床前診断、ロボット手術、出生前診断、遺伝カウンセリング、無痛分娩を極めるため、研鑽を積んでいます。各研究グループの詳細もご覧ください。